前回に引き続き、その他の小字のうち、特徴的なものについて素人なりに考察してみました。
ババ
筆者の住まいを含む一帯の小字ですが、漢字では「馬場」と表記し、「もともとは馬を走らせる広場のことであったが、後には神社、寺院の参道のような、直線的な広場」を指すということです。
確かに、大昔から当地方には馬は珍しく、「馬を走らせる」というのは当てはまりません。
この小字の範囲内には熊野神社、賀茂神社があることから、「神社の参道のような直線的な広場」を含む一帯と見るべきでしょう。
そう言えば、祖父は熊野神社前の広い道を「権現さんの馬場」と呼んでいました。
花折(ハナオレ)
我が家の先祖代々のお墓はこの字に含まれる小高い山の上にあります。
優雅な印象を与える小字名ですが、全国各地に数多く見られるようです。
「ハナ」は「端」で「突き出た土地」を、「オレ」(折)は「下り」で傾斜地を言ったものでしょうか。
たしかに、上の写真の中央部から右上にかけては緩やかな傾斜があります。なお、現在は水田が広がっていますが、戦後の嬉野開拓の一環として開かれた土地で、左下の住宅群はここ20~30年の間に急速に宅地開発され新興住宅街となったあたりです。
百合塚(ゆりづか)
「塚」は昔から古墳や墓を指すと言われてきましたが、口ノ森池附近に古墳があったという報告などは見当たりません。このあたりの地形からは、むしろ「丘」とか「土が小高く盛り上がった所」ぐらいの方が妥当ではないでしょうか。
「百合」は植物の「ユリ」ではなく、あくまで美称で、「ユリ(緩)」すなわち「山地の小傾斜地、緩やかな傾斜地」とみる方が、実際の地形に合っているように思います。
狐谷(きつねだに)
東播磨地区に7ヶ所あるようで、「狐塚」も多くあります。
子どもの頃、この「狐谷」に隣接する「花折」に我が家の持ち山があって、秋から冬にかけて山の中で遊んだ記憶がありますが、山腹に小さな穴があるのを、祖父は「狐のすみか」(巣穴)だと言っていたように覚えています。
今では、とても身近な動物とは言えませんが、その昔は里山にも住んでいて、人々にはそれほど珍しい存在ではなかったのでしょうか。
余田坂 (よでんざか)
「余田」とは「平安、中世の荘園で本来認められている台帳記載以外の田を指す」ということで、その附近の傾斜地をこう呼んだのでしょうか。
坂ノそ
字音の「所」(しょ)の転じたもので、「場所」の意味とするのが、現地の地形から言うと適切でしょうか。
出水川に沿って傾斜のきつい一帯ですから、適切なネーミングですが、初めて聞いたときは変な感じがしました。
以下の小字は漢字には改められても、由来や意味合いは今のところ不明です。
ヲタンバ 妙仙寺を含む一帯で、古い書物の中には同寺の所在地を示す際に「大丹波」としたものがありますが、それ以上は不明です。
ミコカ山 「神子カ山」か?「ミコ」を「神子」と漢字表記した小字は東播磨にいくつか見られます。
ソフカ谷 「草荷谷」または「祖父カ谷」との漢字表記は考えられます。
ハコキ「箱木」 メンコ「面子」
タコカ 漢字表記不明
【参考】
「兵庫県小字地図」 https://hyogo.koaza.info/?zoom=13&lat=34.8424&lng=134.697
兵庫県地名研究会編『兵庫県小字名集』(神文書院、1991年)
楠原佑介, 溝手理太郎 編『地名用語語源辞典』,東京堂出版,1983年.